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最高裁判所第二小法廷 昭和30年(あ)3455号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役六月に処する。

被告人に対する第一審における未決勾留日数中一二〇日を本刑に算入する。

訴訟費用中第一審証人楠本輝之に支給した分は第一審相被告人井山幸雄と被告人との連帯負担、弁護人勝部良吉に支給した分の二分の一並に原審及び当審の訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

被告人本人の上告趣意について。

所論は事実誤認の主張であって適法な上告理由に当らない。

弁護人田中染吉の上告趣意第一点について。

所論は単なる法令違反の主張であって適法な上告理由に当らない。(所論引用の判例は事案を異にし本件に適切でない)。

同第二点について。

所論勾留状を発した当時未だ本件起訴がなかったものであるから勾留状に所論の脱字誤字ありということを得ず、所論は前提において失当であり、従って引用の判例も本件に適切でなく、適法な上告理由に当らない。

同第三点について。

所論は単なる法令違反ないし量刑不当の主張であって適法な上告理由に当らない。

職権により調査するに、被告人は始め窃盗罪によって勾留され、窃盗、公務執行妨害、傷害罪で起訴され、右窃盗罪による未決勾留のまま右窃盗、公務執行妨害、傷害罪について併合審理がなされ、第一審判決において窃盗については無罪、公務執行妨害傷害罪については有罪として懲役六月、未決勾留日数一二〇日通算の言渡を受けたものであるところ、検察官の控訴により、原審は右勾留が無罪の言渡をなした窃盗の事実についてのみなされている場合であるから、その未決勾留日数を前記公務執行妨害、傷害罪の刑期に算入し得ないとして、第一審判決中被告人に関する有罪部分を破棄したことは記録上明らかである。

しかし、本件の如く一つの公訴事実(この場合窃盗罪)による適法な勾留の効果が被告人の身柄につき他の公訴事実(公務執行妨害、傷害罪)についても及ぶ場合において裁判所が同一被告人に対する数個の公訴事実を併合して審理する場合には、無罪とした公訴事実による適法な勾留日数は、他の有罪とした公訴事実の勾留日数として計算できる(昭和二八年(あ)第五〇四七号同三〇年一二月二六日第三小法廷判決参照)のであるから、原審が前記無罪となった窃盗罪による未決勾留日数をこれと併合審理をした公務執行妨害、傷害罪による本刑に算入することが許されないとしたのは違法であって、原判決は刑訴四一一条一号により破棄を免れない。

よって刑訴四一三条但書により直ちに判決する。

原判決が援用している第一審判決が認定した事実を法令に照すと、被告人の所為中公務執行妨害の点は刑法九五条、六〇条に傷害の点は同法二〇四条、六〇条、罰金等臨時措置法二条、三条に該当するところ、右は一個の所為にして数個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段一〇条に則り重い傷害罪の刑に従い、所定刑中懲役刑を選択し、その刑期範囲内で被告人を懲役六月に処し、未決勾留の通算につき同法二一条、訴訟費用の負担につき刑訴一八一条、一八二条を適用して主文の如く判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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